トノサマバッタ採り
我が家の周りには、宅地の準備はしてあるもののまだ売りに出していない空き地がたくさんあります。先月草刈りが入ったお陰で、今、バッタの生息にちょうどよい具合に草が生えています。歩くのも困難な程の草丈だった真夏には、バッタよりもキリギリス類が多く見られました。彼らは跳ぶのも飛ぶのもうまくない分、背が高い草むらに潜みますが、バッタは飛翔力があり、むしろ開けたところにやって来ます。
2人が狙うのはトノサマバッタ。近づくと、足を使ってジャンプするだけでなく羽を広げて遠くまで飛んでいってしまうので、なかなか捕まりません。それを家の2階からこっそり見ていました。しめしめ、今日は勝手に疲れて夜はすぐに寝つくわい、とほくそ笑んでいたのですが、同時に、ちょっとうらやましくもありました。
というのも、僕の生まれ育った70年台の東京の山の手には、屋敷林は点在し、カナブンやセミなら捕まえられましたが、広大な原っぱはなかったので、見つかるバッタ類といえばあまり大きくは飛ばないオンブバッタかショウリョウバッタでした。イナゴでさえ捕まえたら大騒ぎをしたほどです。トノサマバッタを追いかけた記憶は、5歳くらいの時、成田市の隣の酒々井町の両親の友人の家や横浜の港北区の友達の家に行った折、そして今治に帰る夏、とありますが、それらを覚えているくらい、僕にはトノサマバッタは特別な存在でした。それを家の周りで採集できるのですから、成田ってなんて素敵な土地なんでしょう。
さて息子達は、トノサマバッタを捕まえたと、小さなケースに数匹のバッタを持って来たのですが、中にはクルマバッタもおりました。たぶん、虫好きな大人達でもなかなか区別をしないところですが、せっかくなので教えてみたら、こういうのにだけは記憶力や理解力があるんですよねぇ、一発で覚えました。
これはトノサマバッタの♂、緑色型。緑色のトノサマバッタは、バッタといったらこれ、というくらいポピュラーな姿ですが、前述した通り飛翔力に富み広い草むらがないと生きていけないので、都心で見つけるのは難しく、実は捕まえたことがないという人も多いのでは。
褐色型のトノサマバッタの♀。♀は体が大きく迫力があります。より遠くまで飛ぶことができ、息子達も大苦戦。なかなか捕獲できませんでした。晩秋になるとほとんど飛ばなくなるので捕まえやすいのですが、今日見たトノサマバッタの♀は、どれも元気いっぱい、僕も草むらに潜む姿を撮影することはできませんでした。
こちらはトノサマバッタではなくクルマバッタの♂の褐色型です。違い、わかりますか?頭の後ろ、背中にあたる位置が、丸く半円状に盛り上がっています。また、頭の大きさに比べ、腹部が短く、寸胴です。さらに、飛んだ時に後ろ羽に黒い帯が見えてたらクルマバッタ。というのも、その帯が車輪が回っているように見えるからクルマバッタと名づけられたと言われているのです。トノサマバッタに比べると一回り小型で飛ぶ力も弱く、鈍くて捕まえやすいですが、背中に盛り上がりがない代わりに白いXマークがあるクルマバッタモドキ、という種類もおり、こちらの方が数が多いようなのでご注意を。
こちらもクルマバッタの♂、緑化型。緑になるとより見分けやすいはずです。背中の盛り上がった部分が、横から見ると黒く、馬のたてがみのように見えます。また、頭の黒い部分が多いために、緑とのコントラストが強調されるのもクルマバッタの緑色型の特徴。パッと見て鮮やかな緑ならトノサマでなくクルマの可能性が高いです。
最後に。これはまだ羽がないので幼虫とわかりますが、トノサマ?クルマ?いえいえ、ツチイナゴの幼虫です。目の回りに泣いているように縦に濃緑のラインが入っているのに加え、この時期、まだ幼虫であることからわかります。僕も昨年まで知らなかったんですが、ツチイナゴは晩秋に羽化、そのまま冬を越し、早春から活動を再開します。去年の春、なぜこの時期に大きなバッタの成虫がいるのだ、と思ったらこのツチイナゴでした。ライフサイクルを他のバッタとずらすことで繁殖場所となる餌場を確実に確保する戦略をとっているのではないかと考えられます。ちなみに、幼虫はこんな鮮やかな緑色をしていますが、成虫はみな、右の写真のように褐色です。冬場は草が枯れるので、緑では保護色にならないためでしょう。虫の世界もなかなかどうして侮れません。
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